名古屋市瑞穂区にある小さな出版社「桜山社」。代表の**江草三四朗さん(46)**は、創業から10年間、企画から編集、営業までを一人でこなし、温かな本づくりを続けてきました。地域に根ざした丁寧な出版姿勢は、多くの読者や書店から支持されています。
丸善書籍担当の佐藤丈宗さんも「大変誠実な出版社さん」と語るように、桜山社は派手さこそないものの、作家一人ひとりの思いに寄り添った出版活動を行っています。
作家の夢を叶える出版社
桜山社では、**「本屋さんで販売したい」という希望のある作品も、「個人的な思いを形にしたい」**という作品も、丁寧にサポート。作家発掘、出版交渉、経理、出版取次まで、江草さんが一人で担っています。
地元名古屋の書店も桜山社を支えます。名古屋特化型書店の名古屋ブックセンターの店主は「江草さんが出したい本を出すべき」と話し、TOUTEN BOOKSTOREの古賀詩穂子さんも、独立して本屋を運営する経験から桜山社の価値を理解し、作品を取り扱っています。
小学生から大人まで、本が生むつながり
小学6年生の伊藤りあさんは、本が大好きな一人。母の沙織さんは「小学生の時に一番していたことは本を読むことと書くことだったので、記念に本を出版したい」と桜山社に相談。きっかけは、瑞穂図書館に飾られた桜山社のポスターでした。りあさん自身も勇気を出して、直接桜山社に電話をかけたそうです。
江草さん自身も、子ども時代にいじめに遭い、学校へ行くのが辛い時期がありました。その時、本が友達だったと言います。この経験が、作家一人ひとりの思いに寄り添う出版活動につながっています。
IT企業勤務の挫折が生んだ出版への道
2002年に出版社に就職した後、2010年には神奈川で新聞記者、名古屋で家庭を持つために2015年にIT企業で勤務。しかし、高齢者を騙して契約をすすめる仕事に心を痛め、わずか1カ月半で退職。その経験から「人を傷つけない仕事をしたい」と考え、2015年に桜山社を設立しました。
「24色のクレヨン」が語る理念
桜山社の出版理念の原点となったのは、画家の*三宅勝巳さん*(51)との出会いです。重度の自閉症を持つ勝巳さんが29歳で始めたクレヨン作品は約3000点に及び、2018年に「24色のクレヨン~重度自閉症画家KATSUMIの軌跡~」**として出版されました。
出版の中に記された言葉、
「今を自分らしく全力で生きている人の思いを大切にします」
が、桜山社の理念となっています。
夢は家族と共に作る本
江草さんは、「4歳の娘・ゆうかちゃんと一緒に本を作ること」を夢に語ります。さらに、地元・山崎川の桜の絵を描いて出版することも目標のひとつです。小さな出版社でありながら、一人の代表の熱意と愛情が、多くの作家と読者の心をつなぐ桜山社。名古屋から生まれる温かな本の未来に、これからも目が離せません。

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